海へ誘われた話
3月中はほぼずっと帰省していた。だから、大学の友達と遊ぶ機会はほぼなかった。お誘いも数件頂いたが、そのために帰るというのは現実的ではないためお断りした。
彼もそんな誘いをくれたひとりだった。
彼は委員会の同期で、優しくて整った容姿をしているのに卑屈で童貞という変わったやつで、思慮深い人である。私は彼のことが好きで、委員会の仕事中もよくしゃべったりなんだりしていた。
今年のバレンタインにはふたりでご飯を食べに行った(恋する女とチョコレート - 怠惰)。まあバレンタインというのはおまけで、彼の都合のいい日時に合わせたらそうなってしまったのだけれど。ホワイトデーのお返しにはちょっとお高めのケーキ屋さんかつカフェに連れて行ってくれた。
3月のある夜、彼からラインで写真が送られてきた。見ると、浴衣姿を鏡で映した彼の写真だった。唐突過ぎて思わず笑ってしまった。
一瞬彼女と旅行しているのかと思ったが、ホワイトデー時点で彼に彼女はなく、その後できていたとしてもこんなスピードで旅行に行くような人間ではないので、家族旅行だと踏んで返事をした。正解だった。カピバラが草を食んでいる動画も送られてきた。
「何か苦手な食べ物とかある?」お土産を買ってきてくれるなんて優しいなと思った。何でもいいよという意味を込めて「おかゆ」と返した。
その翌日に、彼から明日は空いているかと連絡がきた。北海道にいるんだよと返すと、じゃあ今度ごはんでも行かないかと誘われた。
前々から二人で行こうとしていたご飯屋さんがあったので、そこに行くことを決めた。
そして先日。二人でご飯を食べて、同期の恋愛の話から、就職の話や人生の話まで、色々な話をした。そんなに長居のできるようなお店ではなかったので、食べ終わってから彼の車に乗り込むと、「まだおしゃべりしたいな」と言われた。全く同感だった。話し足りなかった。
どこへ行こうかと話しながら真っ暗な夜道をドライブした。結局少し遠回りして23時までやっているスターバックスに入った。イチゴのやつが飲みたくて入ったが、売り切れていた。
そこでは将来の話をした。理想的な未来の話。楽しかった。私たちに共通している部分として、「陰」であるというのがある。別に陰キャとかそういうことではなく(まあそうだが)、根が陰。底抜けに明るい人といると疲れてしまう。彼といるのは居心地が良い。
スタバからの帰り道、ゴールデンウィークに海に行かないかと誘われた。
わたしは快諾した。
異性と二人で海に行くというのは、どういうことなんだろうと思ってしまった。彼が以前好きだった人と行った海に、今度は彼と私で行くのだ。だからこそわからない。
変な期待をしてがっかりしたくないから、がっかりさせたくないから、ただの友達の振りをして海に付き合ってやろう、なんて思っている。
でもきっとこんなに楽しみなのは私だけなのだろうな。