恋人になる意味
「久しぶりに電話しませんか?」彼からラインが来た。久しぶりといっても3日ぶりなんだけど、と。
その日、私は高校の同級生と先輩との飲み会に参加していて、ラインが来たのはその会からの帰り道だった。最寄り駅まで電車で1時間かかるし、そこから車で10分かかるので大分遅くなるが大丈夫かと尋ねると、酔っていてかつ遅い方がいいと言われた。何を言われるんだろうと少し身構えたが、酔っ払いのアタマなので結局なにも浮かばない。
帰宅して、寝る支度をして自分の部屋へと階段を上がる。電気を消して、充電器をつないで、電話をかけた。すぐ出た。「お久しぶりです、まあ3日しかたってませんけど」彼は言う。私は笑う。正直毎日ラインをしているので、私の中で久しぶり感はなかった。
酔っぱらっていて何を話したかはあまり覚えていない。借りた本の感想や最近の生活についてとか、色々な話をしたんだと思う。
この電話で、互いの呼び方を変えた。私は少し抵抗していたところがあったが、実利上致し方ない面もあった(だって相手のは変なあだ名なんだもん)ので、互いに下の名前で呼ぶことにした。
ふと彼が、「あと2週間か」と口にした。「なにが?」「いや、君に会えるのがですよ」そうか、君は……、私に会いたいと思ってくれていることが素直にうれしかった。「そういえばそうだね、私も会いたいよ」と言うと彼はわざとらしく笑って喜びを表現した。
そして彼はあまりにも、純粋に、私への好意を語るから。私は罪悪感のようなもので苦しくなった。
「いつでも離れていっていいんだからね」
考えに考えて、言葉を選んで選んだ結果、この表現をとった。きっとどういう言葉をつかっても、優しい意味にはならない。
少し時間があって、彼は、「罪な人ですね」と言った。言い訳をさせてほしかった。でもできなかった。他の誰かを好きになってくれれば君は幸せになれる。恋人という関係になって大っぴらに交際ができる。私に構わずそういう相手を見つけてほしいと思った。でも、それは、全く本心ではない。全く。
なにも解っていなかった。私は大切なことを知らなかった。もう遅い。終わりのない、いや、既に終わってしまった関係の中に私たちはいる。気づかなければよかった。気づいてしまった。
もう彼との関係に未来はない。永遠もない。なぜ友達でいれば、親友でいれば永遠だと思ったんだろう。そして、永遠を切ったのは他でもない私だ。
私は彼が私から離れていくのを見送ることしかできない。離さないなどという権利はない。あのとき、この選択をした私が、甘かったのだ。
でも、離れていってほしくない。
なぜ、みな恋人になるのか。恋人という関係性に身を置くのか。それは、相手を離さない権利を得るためだ。
今更恋人にはなれない。なりたくない。きっと互いが不幸になる。でも、この気持ちは、この離したくないという気持ちはどうしたらいいのだろう。利己的な人間だから、口に、態度に出したくなってしまう。でももうだめだ。そんなことをしてはならないと解ってしまった。大人になってしまった。
2週間後、どんな顔をして彼と会えばいいのだろう。