怠惰

怠惰である自分が嫌いという怠惰を。

男友達からの再告白

委員会の合宿、2日目夜の飲み会。

私と親友(男友達からの告白 - 怠惰)は前で出し物をしなければならなかった。飲み会が始まって2人で乾杯し、チューハイを飲んだ。お互いに回しながらふたつの味を楽しんで、それぞれの缶を空けた。ふたりとも緊張しいなのでテンションを上げるために色々なお酒をふたりで飲んだ。

 

出し物の時間がやってきて、その中でもふたりで飲む場面もあったりして、結構彼は酔っ払っていたように見えた。私は前日の飲みすぎで気分が悪くてあまり飲めなかったので、専らソフトドリンクを飲んでいた。

自分達の出し物が終わったあとも彼は飲み続けていた。私は他の人たちの手伝いをしたりなんだりしていて素面に戻ってしまった。

 

全ての出し物が終わって、彼から「ちょっと外に出ませんか」と言われた。かなり気持ち悪そうだったので最寄りのトイレに連れて行こうとしたが空いておらず、地下にあるトイレ付きの大浴場の近くに運んだ。私はもう一度飲み会会場に戻って飲んでいたいろはすを2本持っていくことにした。割と焦っていたので、バレンタインチョコを渡した彼(恋する女とチョコレート - 怠惰)に「なにかあったの?」と訊かれた。「(親友)が酔っ払っちゃったみたい」と返して地下に向かった。

 

地下に戻り、彼をトイレに連れて行った。介抱している間、人生について、自分自身のことについて、色々な話を聞いた。

そうしているうちに、上から階段を下ってくる音が聞こえた。なぜか私たちは廊下から死角になるエレベーターホールに移動して、息を潜めた。今思えば隠れる必要なんてなかったのに。

「もし他の人が今この空間に入ってきたら、ぼくはそいつに何をするかわからない」と言われた。こいつまだ中二病を患っているのかと思いながら、不覚にも可愛いと思ってしまった。「今きゅんとしたでしょ?」とも言われた。さすが親友。

 

「ぼくが今何を言おうとしているかわかりますか?」

彼には本当になんでも相談していて、いわゆる浮気をしてしまったこと(いわゆる浮気という経験 - 怠惰)や、彼氏となぜ別れようと思ったのか、別れた今とてもつらいということも打ち明けていた(突発的破局 - 怠惰)。そして、恋人になってしまえば、身体の関係を持ってしまえば関係性が終わってしまうかもしれないことへの恐怖も告白していた。

その上で、何を言わんとしているか。

わかっていた。でもわからないふりをしなければならなかった。

 

その時、また階段を下ってくる音が聞こえた。今度は近い。きっと地下に降りてくるだろう。

私たちは男湯に隠れた。

 

「どうしよう、ここで一歩踏み出したら終わってしまうかもしれない」彼の口から垂れ流される葛藤に、私は黙っているしかなかった。「背中を押してくれませんか」そんなことできるわけがない。この関係を終わらせたくないのは私も同じで、彼以上に、この関係性に依存している。背中なんて押したくない。

 

「好きです」そう言われた時、私の脳内で何かが弾けた。頭の真ん中から熱いものがあふれだした。この言葉を忌避しながら、待ち望んでいたのだと自覚した。

「でも君はもう恋人は作らないと言った。独占されたくないと言った」「そうだね」「でもぼくはそういう気持ちを持ってしまっている。行きのバスだって隣に座りたかった。サービスエリアでもずっと隣にいたかった。旅行中はずっと君と仕事ができて嬉しかった。昨日の飲み会ではぼくが君を介抱したかった。今日はこうして2人きりでいられて、とても嬉しい。どうしたらいいんですか、ぼくは」

純然たる独占欲を突きつけられて、困惑と快感に襲われた。

「いいんですか、ぼくとこんな暗がりに2人でいて。襲われるとか考えなかったんですか」「考えないよ、だって親友じゃん」「そう思われているのはありがたいけど、わかりませんよ」「襲ってもいいけど、傷つくのは君の方だよ」

 

「私は独占されたくない。君が私のことを好きであればあるほど、独占したさからそういう行為をしてしまったら、傷つくのは君だよ。前にも話したように、私はみんな好きだから、そういう行為はできるよ、なんなら今だって君に触れたいよ。我慢しているよ。でも君が望んでいるのはそうじゃないでしょう?君だけの私になるためのイニシエーションとしての、セックスでしょう?

私は君との関係が壊れるのが嫌だよ。ずっとそばに置いておきたい。ずるいからね」

 

すると、浴場のドアが開いた。幸いにも私たちはドアからは見えない位置にいたのでそのまま息を殺した。さすがに、この状況を見られるのはまずすぎる。一歩でも足を踏み入れられたら見つけられてしまう恐怖に震えた。互いの手を握り合いながら人がいなくなるのを待った。

 

人がいなくなった後、時計を見ると4時になっていた。そんなに話し込んでいたのかと2人で驚いた。それと同時に携帯が圏外であることに気づいた。そうだ、ここは地下だった。

用もないのに男湯に入るということは、私たちを捜索しに来たのかもしれない。心なしか上からばたついた足音が聞こえた。

「もう、潮時ですかね。上に出ましょう」「そうだね、行こうか」「ちょっと待った、最後に」不意にキスされた。また頭の中で何かが弾けた。

 

地上に出るとやはり探されていたようで、どこに行っていたのか問い詰められた。中には泣いている人や、外に探しに出てしまった人もいて罪悪感に強く苛まれた。適当に誤魔化し、その場は収まった。2人とも寝室に搬送され、その日はそのまま寝た。

 

その日から今日まで色々あったが、とりあえずここまで。

関係性が壊れるかもしれないのに一歩踏み出す覚悟は、今の私にはない。その弱さが今後の人生にどう影響するのか、考えたくもない。